人間科学科では1年次後期に3専攻の入門演習から関心のあるものを選択して履修します。心理・教育専攻の入門演習は「多様性」に対する理解を深めることをねらいとしており、その具体的なテーマの一つが「性の多様性」です。
まず基礎知識を得るために、本学学生相談室カウンセラー・辻由依先生による「LGBTQ+の理解—多様な生き方が出来る社会—」と題する講義を受けました。セクシュアリティの在り方は本来多様であること、LGBTQとSOGIの概念的違い、社会場面での困難とそれを軽減するための取り組みなどについて、具体例を挙げながらわかりやすく解説してくださいました。
本来、人間は多様なものであって、多数派だから「普通」、少数派だから「異常」というわけではないこと。それなのに無意識に差別が生じていて、少数派の人が希望する選択ができない状況に置かれたり、多数派の人が自分も気づかずに恩恵を受けていたりする場面が多く存在すること。辻先生の豊富な事例に基づいたお話によって理解を深めることができました。
翌週は映画『カランコエの花』を観ました。高校2年生のクラスの1週間の出来事を描いた映画です。ある日唐突に「LGBTQについて」の授業が行われたことをきっかけに、生徒たちの間に「うちのクラスにLGBTの人がいるんじゃないか」と疑念が広がっていきます。映画視聴後には受講生の皆さんに感想を書いてもらいました。登場人物のうち3人を選び、その行動から見える“思い”を想像します。
次の週には、それらの感想をもとにグループディスカッションを行いました。「映画に登場する大人たちの対応は、何がどのようにまずかったか」「映画の中の生徒たちや私たち自身の中にある偏見はどのようなものか」などについて議論しました。直感的に捉えたものを、対話を通して言葉にしていきます。
最後の週は、同性婚訴訟における原告側と国側の主張のポイントと、現在も進行中の裁判経過を踏まえて、SOGIの尊重について考えました。「偏見や差別に苦しむことなく、自分らしく生きることができるから望ましい」「SOGIを尊重しないことは、他のマイノリティを否定することにもつながり、全員の不利益になるのではないか」「無理に価値観を合わせる必要はまったくないけど、ただお互いを尊重できる社会をつくることができるようにするという面では私たちも関わっていくべき」などの意見が出されました。
他方で、「性の多様性について多数派の人が流行のように取り上げることには違和感を抱く」「本人にしかわからないことがある」との率直な意見も出されました。多様性とは何か。多数派と少数派の間の力関係や不利益はどのように作られるのか。それはどのようにして変えていくことができるのか。すぐに答えの出る問題ではありませんが、心理・教育入門演習では互いの意見から気づきを得ながら考え続けていきたいと思います。