新田雅子:教員紹介
80年,90年生きてきたひとには,それぞれに長い歴史があります。これを学問的には「生活史life history」といいます。それはひとりひとりのなかに刻まれた記憶,習慣,価値観ですから,高齢者について考えるということは,時代時代を生きてきたその人の生活史を想像し理解するという営みでもあり,突き詰めれば,個人を通して過去・現在・未来の社会について考えるということになります。もちろん,生きているかぎりは誰であれ生活史を日々刻んでいるわけですが,高齢期を生きる人びとと出会って,長い人生の道すじを共にたどりながら相手を理解しようとしたり,すでに過去のものとなった出来事や考え方が個人のなかにいまも「存在している」ことを発見したりすることの面白さは,私にとって興味のつきぬ経験 です。お年寄りの生活史の奥行きの深さゆえと思います。
このような人間理解のしかたは,心身の状態や経済状況によって困難に直面している人びとに対面する,社会福祉の営みの基本でもあると思っています。私はとりわけ,認知症の高齢者との関わりにおいて,その人の生活史や生きてきた社会を理解し,いまその人が生きている「世界」を捉えようとすることが大変重要だと考えています。このように,お年寄りの生活史に対する社会学的な関心を基盤として,高齢者福祉について調べたり考えたりしている,というのが,私の研究的立場の正しい説明になります。
人間科学科では,社会福祉関係の科目を担当しています。「高齢者福祉論」は私が最も専門とする科目です。講義では老人福祉法や介護保険制度の説明ももちろんしますが,そうした社会福祉の法制度を,高齢者自身の生活という視点から,あるいは人が老いるという経験への理解を通して,考えてもらえるような進め方をしています。また,「社会福祉援助技術現場実習指導」では,老人福祉施設で実習をする学生への実習指導を担当しています。私自身が大学3年時の現場実習でいろいろなことを学び,それが今につながるとても大きな経験であったと感じていますので,実習生にもぜひ実り多いものにしていただきたいといつも思ってい ます。ですから,実習の学生とは1年間,ゼミ学生と同じくらい密度の濃い関わりをすることになります。
「専門ゼミナール」では,江別市で実施されている独居高齢者の閉じこもりを防ぐための居場所づくりのような事業に,学生も参加して,地域の皆さんとともに「集い」を企画したり実践したりするような取り組みをしています。具体的には,一緒にお昼ご飯を作って食べたり,体操をしたり,時には日帰り温泉旅行に同行させていただいたりしながら,その地域の「集い」の特徴や課題を見出して,報告書にまとめるという活動です。そんなわけで,新田ゼミの学生は,流しそうめんや餅つきが上手くなります。お年寄りのダジャレに強くなります。そうして,地域の人たちの中で物おじせず,いきいきと動けるようになっていくのだと思います。そんな活気のある,楽しいゼミです。