卒業論文—大学生活の集大成—
さる3月19日に2009年度学位記授与式が行われ、人間科学科では134名の皆さんが卒業を迎えました。おめでとうございます。
ここでは、今年度文化領域の卒業論文で高い評価を受けた卒業生の一人である高橋史弥くんに、自分の卒業論文の内容と執筆に関わるエピソードを、後輩へのアドバイスなどを交えながら、紹介してもらいました。高橋くんは4月から東京の大学の大学院に進学し、卒業論文を踏まえて研究をさらに発展させて行く予定です。今後のますますの活躍を期待しています。
(人間科学科 奥田統己)
人間科学科では、大学卒業のための必修科目として卒業論文の作成があります。卒業論文は、自分の興味のある事柄を研究していくものです。僕は、「北海道十勝地方における葬送儀礼の変容」という内容の卒業論文を書きました。十勝地方の葬式の変化の様子を、民俗学的に解き明かしていくというものです。北海道の葬式については、詳細に調べられている文献は少なく、十勝地方に限っていえば、ほとんど無いといってもいいくらいです。そうした地域での葬式の昔の方法と、現在の方法とでは、どのような違いがあるのか、その変化の理由は何なのかということを調べたのが、僕の卒業論文です。葬式は、地域によって方法に違いがあります。ですから、記録のあまり残っていない場所での葬式の方法を調べて、記録しておかなくては、人々から忘れ去られてしまい、過去にその地域で葬式がどのように行われていたのかを調べることが不可能になってしまいます。そうしたことの危機感から、このような卒業論文を書くことにしました。
卒業論文を執筆するにあたっては、その分野に関して研究されている本を読みます。一般書店に並んでいる物から、すでに絶版になってしまった本まで、出来る限り多くの本に目を通します。札幌学院大学にない本は、他大学から取り寄せることもできます。そうして、自分の研究したいことの知識を蓄えます。次に、実際にどのような調査を行えば、自分の目標とする成果を上げられるのか、質問項目の設定をします。僕の場合は、文献に書かれたものがほとんどないので、十勝地方に昔から住んでいた高齢者の方々からの、聞書きという、ボイスレコーダーを使って、話を聞き取る方法で調査しました。その際の、最低限のマナーとして、この研究に関することは、しっかりと調べ、さらに自分の知らないことを教えてもらうという姿勢で高齢者の方々と接しました。中には90歳を超える方もいらっしゃったので、疲れていないかなど、相手の状況にも常に気を配りました。
また、葬式という話をうかがうので、相手の触れられたくない面に話が及ぶこともあり、どのように質問をすればよいのかということなど、苦労することも多かったのですが、実際に経験者からお話をうかがうことは、文献には書かれていないことや、自分のまったく知らない話、相手の苦労した話などがあり、とても興味深いものでした。例えば、積み上げた薪の中に死者を座らせて野火で焼いてしばらくすると、ボンという音を立てて死者の手足が吹き飛ぶことがあり、当時は怖かったが死を身近に感じることができたとか、全身に白い着物をまとい、死者を棺に載せて火葬場まで歩いたなど、多くのお話をうかがうことができました。その他、昔は人が亡くなると、隣近所の人が駆け付けてくれて、お手伝いをしてくれたが、今はそういうことがない。隣の人の顔も分からない世の中だという話をしていた方もいて、過去と現代の社会の変化が葬式に与えた影響を、経験者からじかに聞き取ることができました。
僕の卒業論文の主な成果としては、十勝地方の帯広市以南の地域では、屋外で火葬していた時代、お墓と、火葬していた場所の両方にお参りしていたということ。十勝地方では、納骨堂と呼ばれる、お寺の屋内に設けられた場所に遺骨を納めることが多いということなどを新たに指摘することができました。
卒業論文は作成が大変な物ですが、大学生活で得た知識や技術の総括となるものだと思います。また、卒業論文の足りない部分を、友人と指摘しあったり、補いあったりすることは、卒業論文執筆の際の大きな楽しみの一つです。卒業論文は、今後、大学生活を振り返る時の、よい思い出となることでしょう。
(2009年度人間科学科卒業 高橋史弥)
(画像はいずれも芽室町・真宗大谷派法運寺納骨堂、2009年3月26日および8月13日撮影)